日本語教員試験と日本語教育能力検定試験の最も大きな違いは、日本語教員試験が国家資格である点です。また、両者は日本語と日本語教育に関する内容を扱うため試験の内容が似ていますが、試験の構成や出題形式が異なります。
本記事では、2つの試験における大きな違いを解説します。記事後半ではどちらを先に受験するべきかも解説しているため、ぜひご活用ください。
CONTENTS
日本語教員試験の概要
日本語を教える教師として知識やスキルが備わっており、十分に発揮できるか測定するのが目的の試験です。
文部科学大臣に認定された日本語教育機関に勤めようとする人は、日本語教員試験を突破する必要があります。
試験は、基礎と応用の構成になっており、応用試験に合格すれば実践研修を受ける段階に進めます。
現役の教師も取得が必須に
現在、日本語教師として働いている人も認定された教育機関に勤めるなら取得が必須になります。
そのため、まだ資格を取得していない現役教師(告示校有資格者)は、経過措置が適用される2029年3月までに日本語教員試験の応用試験に合格、または講習を修了して、登録日本語教員となる必要があります。(詳細はこちらhttps://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/pdf/93964001_03.pdf)
受験するための要件に制限はありません。年齢や国籍は関係なく、学歴も関係なく受けられるため、多くの人がチャレンジできます。
安定した職場で働ける
試験に合格し、資格を取得すると安定した職場で働きやすくなります。文部科学省に認定された日本語教育機関に就職できるためです。2029年までは、文科省が定める必須の50項目に対応した養成課程を修了し、学士以上の学位のある人は、法務省告示校の有資格者として、それ以降は認定日本語教育機関では働けなくなります。
しかし、それ以降になると認定された機関では働けず、資格が不要な機関やオンラインシステムを利用した形態でしか活動できなくなります。
たとえば、オンライン授業やプライベートレッスン、国外の学校による日本語指導などが認定なしで可能な方法です。
日本語教員試験は国内が対象のため、海外にある学校は日本語教員試験が必要ありません。そのため、国内にある認定された機関に就職し安定した状態で日本語教師として活躍するには必須の資格といえます。
2つの試験の共通点
この2つの試験の共通点は出題範囲です。どちらも文部科学省が定める「必須の教育内容」の中から出題されます。
但し、日本語教育能力検定試験はこれが50項目であるのに対し、日本語教員試験は「教育実習」を除いた49項目となります。
また、この必須の教育内容は①社会・文化・地域 ②言語と社会 ③言語と心理 ④言語と教育 ⑤言語 と大きく5つに区分されています。
日本語教育能力検定試験の概要
日本語を教える上で必要になる知識とスキルを証明できる資格です。
日本語を学習している層が増えているため、教育者に求められる要素も複雑かつ多様化しています。
統一された物差しがないため、この検定試験は日本語教師としての一定の能力を証明するものとして、長らく認知されてきました。特に海外で就職する際は、信頼できる客観的な証明として、重視される傾向がありました。
この検定試験は一定の信頼を客観的に証明できるものとして認知されてきました。
試験の違い
2つの試験は構成と出題形式が異なります。
日本語教員試験はマークシートですべて解答しますが、日本語教育能力検定試験のほうは記述で答える部分があり、対策が必要です。
それぞれの試験内容を正確に把握して備えましょう。
日本語教員試験の特徴
日本語教員試験は文部科学省が実施しています。
試験は基礎と応用の2種類で構成されており、どちらもマークシートで解答します。基礎試験は100問出題されており、所要時間は120分です。
基礎試験で出題される区分の割合はある程度決められています。多くは約10%の出題率ですが、言語と教育の区分は最大40%、言語の区分は30%とされているため、取り組む目安として活用しましょう(令和7年11月時点)。
応用は聴解と読解の2種類で構成されています。問題を解決する能力を重視しており、区分を横断して出題されるため、しっかりと勉強して挑む必要があるでしょう。
聴解では50問出題され、所要時間は50分です。読解は60問で、所要時間は100分です。
初めてこの試験が実施された令和6年度の合格率は、試験を免除されている人を含めた状態で約60%でした。
日本語教育能力検定試験の特徴
日本語教育能力検定試験は公益財団法人が実施している試験です。試験は3部で構成されており、マークシート形式と記述で答えます。
試験Ⅰは100問出題され、所要時間は90分です。
試験Ⅱは40問になり、試験時間は30分です。音声媒体により出題されます。
試験Ⅲはマークシート形式の80問と400文字の記述式で120分です。この試験の合格率は30%程度といわれています。
このように、試験の構成や答え方に違いがあります。とくに記述式はしっかりと対策しておかないと答えられません。十分に勉強してから挑むといいでしょう。
日本語教員試験の難しさ
日本語教員試験は複数の要素によって難しくなっています。要因を正確に分析して勉強に活かしましょう。
複数の試験を突破する必要がある
基礎試験では分けられた5つの区分で約60%を取る必要があり、総合得点で80%を達成しないと合格がもらえません。
応用試験は総合得点で60%以上取る必要があります。試験を段階的に受ける必要があり、必要な時間とカバー範囲が広いのが特徴です。
基礎試験と応用試験の双方を受験して合格した人は2024年で9.3%とされており、幅広い出題分野が難しさに反映されていると考えられています。
聴解対策が重要
聴解問題があるため、試験が難しくなります。
音声は1回しか流れないため、瞬時の判断が求められます。また、実際の現場に近い形式で問題が出題されるため、高い解決能力を測られているからです。
とくに、独学者は環境を整える(CDが聞けるPCの用意など)のがつい億劫になる、或いはどこから手をつけたらいいかわからない、といった理由から、対策がおろそかになりがちです。そのため、聴解問題がある試験は難易度が高いといえます。
カリキュラムを提供している機関を利用しているなら「音声」の授業でしっかり音声知識を身に付けましょう。また、日本語学校に併設された養成機関では、留学生と接し、彼らの発音を耳にする機会も多いので、フルに環境を活かしましょう。独学で進めているなら聴解を後回しにせず、問題集などの音源を使って対策を進めてください。
専門家の中には、読解よりヒアリングを優先的に学習すると効率的だととらえている人もいます。十分に対策すれば、得点が上がりやすいと考えられているようです。
また、現在実務経験を積んでいるなら、学習者の発話での誤用など、体験を試験用にまとめておく方法も有効でしょう。流れてくる音声をしっかりキャッチして得点に活かせるように訓練してください。
過去のデータが少ない
令和6年度に始まったばかりの試験のため、過去問による対策がまだ有効にならない試験です。
多くの試験は過去問を繰り返し解くことによって、攻略するパターンを覚えていくものです。しかし、累積データが少ないため、傾向や対策がわかりにくく、本来の難易度よりレベルが上がった可能性があります。
これから実施回数を重ねていくことで試験データが蓄積され、出題傾向や本来の難易度も徐々に把握しやすくなるでしょう。
日本語教育能力検定試験の難しさ
日本語教育能力検定試験は性質上、難易度が高くなります。
日本語に対して深い理解がないと対応できず、出題範囲が広いため、試験そのものが難しい部類に入ります。
専門性が高い
専門性が高い試験内容となっており、出題される問題の傾向を把握した十分な対策が必要です。
試験の中には音声を聞いて解答するものがあり、多くの人が慣れていないため正答率を下げていると考えられます。また、日本語を指導する教師に関係する知識や、授業の計画、分析方法も習得する必要があり、専門性が高いといえるでしょう。
さらに、コミュニケーションの知識も試験内容に含まれています。言語の歴史や形成された文化も習得する必要があるため、要求されるレベルは高めです。
知識はもちろん体系的な理論の習得も必須となります。
深い内容を習得する必要があるため、難しい試験といわれているのです。試験内容をサポートしている養成機関を利用すれば、専門的な知識を試験合格に合わせて段階的に教えてくれるでしょう。
独学の場合は自分で体系的な知識の習得に取り組む必要があることを意識して取り組みましょう。
カバーすべき範囲が広い
カバーすべき範囲が広いという特徴があります。
日本と世界の社会や文化といった非常に広範囲の内容を習得する必要があります。
また、心理や多文化社会についての内容も扱っており、複雑です。日本で教師として活動するための知識についても触れています。
日本語の発声についても体系的に学習します。このように、日本語について包括的に勉強する必要があるのです。
出題される範囲は指定されていますが、勉強したところが必ず出るとは限りません。範囲が広いため、効率を考えずに勉強していると各区分の理解度が浅くなってしまう危険性があります。
そのため、認定された機関を利用しているなら提供されているカリキュラムに集中して取り組む方法が有効です。
独学の場合は、あらかじめ設定したスケジュールに沿って学習を進める、過去問に取り組み着実にアウトプットできる量を増やしていく方法が有効と考えられます。
受けるタイミングが限定されている
受験できるタイミングが1年に1回と設定されているため、難しく感じます。
失敗したくないと不安が大きくなるためです。
また、精神的な浮き沈みもコントロールする必要があり、独学者は外部のサポートが期待できません。そのため、頻繁に自分の都合で受けられる試験よりレベルが高いと感じるでしょう。
試験予定日までモチベーション管理を含めたスケジュールを作成し、修正しながら進めて当日平常心で受けられる土台を作ります。
目的によってどちらを受けるのか決める
どちらを受験するべきかは、目的によって変わります。
日本語教員試験に合格後、実践研修を修了すれば、国家資格が取得でき、職業の選択肢が増えます。国内の各認定機関(留学・就労・生活)に就職できるからです。日本語を教える先生としてこれから活躍したいと考えている人は、日本語教員試験を優先的に受けておいたほうがいいでしょう。
現時点で、教員として働きたいといった明確なイメージが固まっていない人は、日本語教育能力検定試験を受けてみてください。日本語を教えるための知識を有していると証明できます。
後から教師を目指した場合でも両者の試験範囲は共通しているため、検定試験で吸収した知識を活用可能です。つまり、どちらを受験しても構いませんが、自分が教師になりたいと決めているのかどうかが判断基準になります。
日本語教員試を突破し、国家資格を取得する4つの方法
日本語教員試験を突破する方法は、独学と養成機関活用の2種類あります。さらに、養成機関の活用方法には3通りあるため、取得方法は4つです。
独学で取得する
日本語教員試験は受験する際、年齢・国籍・学歴の制限がなく独学で目指せる資格です。
まず、基礎試験に合格した後、応用試験にチャレンジして合格した状態で、実践研修を終わらせると取得できます。大学のような専門機関で座学を勉強しないため、費用を抑えられるのが利点です。
この方法だと、受験料と最後の段階である研修機関のみで、経済的な圧迫を軽くしたい人に適しています。
ただし、独学は自分で知識と実践を結び付けて学ぶことが難しいため、その後の実践研修のハードルは高いです。実践基礎力を身につけるための補習などをうけることも視野に入れておいたほうがよさそうです。またサポートがない点でも、難易度が高めです。
自分でスケジュール管理ができて合格する自信があるならチャレンジしてもいいですが、多くの人は別の方法を検討するでしょう。
実践研修をしている養成機関で取得する
日本語教員になるための養成課程と実践研修を一体型で提供している登録機関を活用して資格を取得する方法です。
この養成課程と実践研修一体型のコースを修了すると、後は応用試験のみの合格で国家資格が取得できます。また、応用試験を受けるタイミングは、講座の受講開始時期によって実践研修の前の場合と後になる場合があります。
カリキュラムを受けている中で、基礎試験がパスできる程度の知識が身に付けられます。独学よりも応用問題を解くための土台を安定して構築しやすいのが利点です。
また、実践研修はプログラム内で養成課程と一体化されており、養成課程の間にある程度の実践基礎力を身に付け、実践研修にスムーズに移行できるよう、カリキュラムが組まれています。実践研修では、知識を現場でどう応用するかを学びます。
講座の開講時期によっては、応用試験の前に実践研修が入ってくるケースもあります。これらの現場での体験をしておくことは応用試験を受ける上でも有利に働くでしょう。なお、コースによっては、実践研修が応用試験の後になる場合もあります。
こういったコースはある程度ペースが決められており挫折しにくい反面、自分のペースでコントロールできる部分が限られる方法です。
時間を確保して着実に試験を突破したい人に適しています。
実践研修をしていない養成機関で取得する
日本語教員になるカリキュラムで勉強し、その後応用試験と実践研修を受ける方法です。登録機関の実施する養成課程を修了することにより、基礎試験は免除となります。
応用試験からスタートでき、合格したら実践研修に進みます。つまり別の「実践研修機関」が運営するコースを探して受講します。養成機関と実践研修機関が異なる場合、指導される内容も多少異なることが予見されます。指導の一貫性という意味では、食い違いが生じるケースもあるかもしれません。
必須項目に対応したプログラムで取得する
登録機関ではないけれど、文科省に必須の学習内容50項目を網羅していると認められたコースで学ぶ方法です。この方法では基礎試験と実践研修が免除されます。但しこちらは学士以上の学歴が必要となります。(経過措置Cコース)https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/yoiku/pdf/3964001_03.pdf」
これらは420時間コースと総称されますが、正式な時間数、受講期限などは養成機関によって異なるので(大半は420単位時間以上の設定です)公式サイトをチェックしましょう。通信で受講できるところもあります。
日本語教育能力検定試験の勉強方法
難易度の高い試験を攻略するには計画を立てて挑みましょう。
時間の洗い出し、スケジュール作成、勉強道具の準備と進めていけば合格を目指して進められるはずです。
使える時間を洗い出す
合格するまで必要な時間を把握し、具体的な時間の作り方を模索します。
試験に合格するには、約500時間の勉強が必要です。長期間の計画を作成しましょう。
現実的に継続できる1日の勉強時間を割り出してください。平日は朝の時間や休み時間、通勤時間を活用しましょう。休日は比較的まとまった時間を取れるはずです。
スケジュールを作成する
合格するためのスケジュールを作成します。
試験に出る内容を分析して、自分が苦手とする分野は安定して合格点を取れるように時間を割り当てます。吸収が早い分野はより成長できるように組み込むといいでしょう。
長期的な計画を先に決めてから短い単位のスケジュールに取り掛かると達成しやすいものになります。また、勉強中に想定より学習が進んだり、逆に別の予定が入って遅れたりした場合は修正が必要です。
スケジュールは進捗管理も重要な要素になります。現実的かつ余裕がある計画をあらかじめ立てておけば、管理も容易になるでしょう。
勉強に使うものをそろえる
勉強に使うものを揃えましょう。養成講座で学ぶ人は各科目の教科書・副教材などがあるでしょうから、それらで基礎知識を得、その上で自分の得手不得手、やり方を分析しておけば、適切な教本が見つかるはずです。
独学の人は主要な分野の概論を数冊用意し、まずは基礎知識を得るといいでしょう。いきなり試験問題に取り組んでも、全く理解でき挫折するはめにもなりかねません。
試験本番のイメージをつかめる問題集、参考書は重要です。
出題される問題の傾向やよく取り扱われている内容の解説、試験日の流れが掲載されている本が該当します。また、試験の要点を軽くまとめてある基礎知識に特化した本も理解するのに役立ちます。
こういった本は、試験を受けると決めた段階の人におすすめです。全範囲をカバーしている教本を1冊持っておくと勉強の強い味方となるでしょう。
試験の性質上、試験範囲の内容すべてをカバーしている教本は、わからなかった部分を検索できて便利です。
内容が網羅されている教本はボリュームがあるため、部分的に活用してください。
文章の読解に苦手意識がある人は解きながら進めていく方法が合っている可能性があります。解説がわかりやすく、読者に解かせることに重点をおいている構成のものを選ぶといいでしょう。
また、文法に苦手意識があり、より丁寧に解説してほしい場合は、解説に力を入れている教本がおすすめです。
用語集も必要になるかもしれません。試験の特性上、専門的な用語の数は多くなります。1冊用意して隙間時間を活用し記憶定着に役立てるといいでしょう。
過去問は、習得した知識をアウトプットするための訓練になります。
このように、参考書にも多くの特性があります。自分に合った参考書を選べば、スケジュール通りに勉強が進むでしょう。
実戦形式の問題を解く
実戦形式の問題を解くと、自分の実力を正確に把握できます。
過去問は、出題される問題の傾向や実際の難しさが体験できる貴重な情報媒体です。
試験形式で取り組むことで時間配分を経験できるため、試験に慣れる訓練になります。
最低でも5年分の過去問に触れておくと試験に近い形式で学習できるはずです。苦手な部分を洗い出して修正するシステムとしての機能もあります。最低でも5年分の過去問に触れておくと試験に近い形式で学習できるはずです。苦手な部分を洗い出して修正するシステムとしての機能もあります。
日本語教試験の方はサンプル以外、文科省は公開していません。しかし、これまでのところ、日本語教育育能力検定試験と類似点が多いというのが専門家も含めた多くの人の見解です。ですから、日本語教員試験を受ける人も日本語教育能力検定試験の過去問に当たっておくことは一定の効果があるでしょう。
もし、合格点に近い点数を獲得しても加点されなかった部分をチェックして理解しておいてください。
そして最も重要なことは、間違えた部分を繰り返し復習しておくことです。数年連続して出題されるような項目もあります。問題集や過去問で出来なかった部分が出題されたら必ず得点できるようにすることで、合格を引き寄せることができます。
とくに、特に、日本語教育能力検定試験の記述式の対策はしっかり取り組んで十分に対策してください。
まとめ
日本語教員試験は国家資格で、日本語教育能力検定試験は民間資格です。認定日本語教育機関に就職するには、国家資格が必須になります。
日本語教育能力検定試験は、人に教えられるほど日本語を理解していると証明できる資格です。
どちらを優先的に取得するかは、学習者の目的によって変わるでしょう。現時点で日本語教師として働くことを思い描いているなら国家資格取得を優先し、スキルアップや将来日本語教師になりたくなった際に知識が活かせるように検定試験を受けておくと効率的です。
両者の違いを正確に把握してチャレンジしてみてください。